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岡山地方裁判所 昭和63年(ワ)393号 判決

原告

小林珠美

被告

岡山交通株式会社

ほか一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金五六一万九六〇七円及びうち金五一一万九六〇七円に対する昭和六二年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次のとおりの交通事故(以下、本件事故という)が発生した。

(一) 発生日 昭和六二年一月一三日午後一〇時頃

(二) 発生場所 岡山県倉敷市水島東川町六―一六先道路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(番号 岡五五い一〇四〇)

(四) 右保有者 被告岡山交通株式会社(以下、被告会社という)

(五) 右運転者 被告椙原繁(以下、被告椙原という)

(六) 被害者 原告

(七) 態様 被告椙原が右加害車を運転していて道路端に立つていた原告を撥ね飛ばしたもの。

2  責任原因

被告椙原は、前方の安全確認を怠つた過失があり、被告会社は、加害車の保有者として自動車損害賠償保障法三条の責任がある。

3  負傷、治療経過及び後遺障害

(一) 本件事故により、原告は、第一一、第一二胸椎圧迫骨折、右恥骨骨折などの傷害を受け、事故当日から昭和六三年二月一五日まで倉敷市内の病院などで一六三日入院し、二三六日通院(実通院日数一四二日)して、治療を受けた。

(二) しかし、原告には、局部に頑固な神経症状が残り、右後遺障害は、いわゆる自動車損害賠償法後遺障害等級の一二級に該当する。

4  損害

原告は、本件事故により、次の損害を受けた。

(一) 治療費 五一万七七四七円

(二) 入院雑費 一六万三〇〇〇円

(三) 交通費 一四万二〇〇〇円

原告は、前記通院一日につき一〇〇〇円の交通費を要した。

(四) 休業損害 二〇六万一二三四円

原告は、本件事故当時、倉敷市内のパチンコ店に店員として勤務し、月額一五万五〇〇〇円の収入を得ていたが、前記入、通院(二三六日)治療のため、三九九日間の収入二〇六万一二三四円を得ることができなかつた。

(五) 後遺障害による逸失利益 九二万九四三円

原告は、本件事故当時五二歳の健康な女子で、その平均賃金は月額一九万五四〇〇円であり、前記後遺症のため、治療終了後五年間にわたり、少なくとも労働能力の九パーセント(前記等級の一三級の喪失率)を失うこととなるから、この間における逸失利益は新ホフマン係数四・三六四を用いて中間利息を控除すると九二万九四三円となる。

(六) 入、通院中の慰謝料 二五〇万円

(七) 後遺障害慰謝料 一〇九万六〇〇〇円

(八) 弁護士費用 五〇万円

原告は、本件訴訟追行のため、原告右訴訟代理人弁護士と本件判決の認容額の約一割の報酬を支払うことを約束しており、本件事故により同額の損害を受けたものである。

5  損害の填補

原告は、被告らから合計二四七万八五一七円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告会社に対し、自動車損害賠償保障法三条により、被告椙原に対し、民法七〇九条により、各自右4の損害金五六一万九六〇七円とうち右弁護士費用を除く損害金五一一万九七〇六円に対する本件事故の日以後である昭和六二年一月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(六)の事実は認め、(七)の事実は否認する。

2  同2の事実は争う。

3  同3の(一)の事実は知らない、(二)の事実は否認する。

4  同4の事実は知らない。

5  同5の事実は認める。

三  抗弁

本件事故は、被告椙原が加害車を運転して、信号機のある交差点を、進行方向の青信号に従つて進行中、原告の進行方向は赤信号であるにもかかわらず、原告がこれを無視して横断歩道に飛び出したため、加害車と衝突したものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の(一)ないし(六)の事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証によれば、本件事故の態様は、被告椙原の運転する加害車の左前部が原告に衝突したものであることが認められる。

二  責任原因

1  請求原因2の事実のうち、被告会社が加害車の保有者であることは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

2  前出甲第三号証、撮影者、撮影年月日、被写体につき争いのない乙第一号証の一ないし一一、証人貝原耕太郎の証言、原告及び被告椙原の各本人尋問の結果(但し、いずれも後記採用できない部分を除く、以下同じ)によれば、本件事故現場は、岡山県道水港線の信号機のある交差点直近の路上で、制限速度は時速四〇キロであつて、道路は片側一車線(外側部分を除くと幅三・三メートル)で外側線があり歩道と外側線の間は一・七メートルあり、右交差点のすぐ南側には横断歩道があること、被告椙原は、乗客を乗せて加害車(タクシー)を運転し、北方向に、右交差点の青信号に従つて、時速約五〇キロで右交差点に向かつて、加害車の車体を約三分の一程度右外側線から歩道寄りに寄せて進行していたところ、右横断歩道の南にある最初の街路樹のさらに南で進行方向の左前方数メートルの道路上に、突然原告を認め、急制動をかけたが及ばず原告に衝突したこと、原告は、当日、右交差点の南西にあるパチンコ店で遊んだ後、共に帰る友人がタクシーを拾うため先に店を出た後を追つたこと、原告が歩道に出てみると、右友人は反対側車線の歩道寄りでタクシーを待たせていたこと、原告は右タクシーのいる方へ道路を渡らなければならないのであるが、そのときその方向の信号は赤であることを認識していたこと、しかし進行してくる加害車の灯火は見ていないことが認められ、原告及び被告椙原の供述のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できない。

右認定事実によると、被告椙原は、前記進行方向の交差点の信号が青であつたとはいえ、前方に横断歩道があり、夜間であつて、しかも外側線を一部越えて歩道寄りを走つているのであるから、制限速度以下に減速して走行すべきであつたところ、前認定のように漫然と制限速度を時速約一〇キロ超過して加害車を走行させた過失があり、原告は、赤信号で右道路の横断はできないところ、原告を待つている友人の所へ行くべく、加害車の進行してくるのを確認もせず、しかも右横断歩道付近の路上を横断しようとした過失のあることが推認でき、本件事故は右被告椙原と原告の過失を原因とするものであるというべきである。

三  負傷及び治療経過

成立に争いのない甲第四ないし第九号証によれば、原告は、本件事故により、第一一、第一二胸椎圧迫骨折、右恥骨骨折、頭部、腰部打撲、頸椎捻挫、全身打撲の傷害を受け、請求原因3の(一)のとおりの治療を受けたこと(但し、通院実日数は一四一日である)が認められる。

四  後遺障害

成立に争いのない甲第一〇、第一一号証によれば、原告は右治療を受けたが、昭和六三年二月一五日以降、症状は固定し、頭痛、項部痛、肩胛部痛、左上肢痛、背腰痛、右下肢痛が残り、自動車損害賠償責任保険における後遺障害認定では、右後遺障害を自動車損害賠償保障法施行令の別表後遺障害等級表の第一四級一〇号と認定していることが認められる。

五  損害

1  治療費 五一万七七四七円

前出の甲第七ないし第九号証によれば、原告が前三認定の治療に要した費用は、診断書料と明細書料を含めて五一万七七四七円であることが認められる。

2  入院雑費 一六万三〇〇〇円

原告の前記入院期間一六三日間における入院雑費は、一日につき一〇〇〇円と認めるのが相当である。

3  交通費 六万二五六〇円

成立に争いがない甲第二三号証の一ないし二五、乙第三号証の一ないし五、原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一五号証によれば、原告が前記入院中に帰宅又は買物のため外出するに要した交通費は二万九七六〇円であり、通院のために要した交通費は、タクシー代二八〇〇円(甲第一五号証の昭和六二年一〇月一六日分の記載は、前出の甲第九号証によれば同日には通院していないので、これは通院している同月一四日又は一七日の誤記と認める)、バス代三万円(昭和六二年九月一日から翌六三年二月一五日まで右タクシー利用日を除く通院日数七五日、一回の往復運賃四〇〇円)であることが認められる。なお、昭和六二年七月六日から同年八月三一日まで、原告が通院に要したタクシーの料金は被告会社の負担していることが認められる。

4  休業損害 二〇五万六三三三円

原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一二号証と前認定の負傷、治療経過及び後遺障害の事実によれば、原告は、本件事故発生当時、パチンコ店に勤めて景品交換の業務に携わり、月額一五五〇〇〇円の給料を支給されていたところ、原告は、前記負傷とその治療のため、昭和六二年一月一四日(本件事故当日は稼働可能)から翌六三年二月一五日まで三九八日間右就労できず、この間の収入二〇五万六三三三円(円未満は切捨て、以下同じ)を得ることのできなかつたことが認められる。

5  後遺障害による逸失利益 五四万五八四円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故以前は健康な女性であつたことが認められ、前認定の原告の後遺障害の程度によると、前記後遺障害により、原告は、その労働能力の五パーセントを喪失し、その喪失期間は本件事故後五年とするのが相当である。そして、昭和六二年のいわゆる賃金センサス第一巻第一表の女性労働者年齢計、学歴計の統計によれば、原告は、この間年収二四七万七三〇〇円の収入を得ることができたところ、右後遺障害により、その五パーセントを五年間にわたり、失わざるを余儀なくされたものということができるから、本件事故時におけるその喪失額の現在価は、ホフマン方式により中間利息を控除すると五四万五八四円となる。

6  慰謝料 七〇万円

先に認定した本件事故による傷害の部位、程度、治療経過及び後遺障害の内容、程度を総合し、さらに次に判断する原告の本件事故発生に関する過失割合を考慮すると、原告は、右傷害の治療及び後遺障害により精神的苦痛を受け、これに対する慰謝料は、治療期間中のものとして五〇万円を、後遺障害によるものとして二〇万円とするのが相当である。

六  過失相殺

前二2において認定した事実によると、本件事故の発生については、原告においても過失があり、その割合は被告椙原の過失を二割、原告の過失を八割とみるべきである。

したがつて、被告椙原の不法行為により原告が受けた損害は、前五1ないし5の損害三三四万二二四円の二割に当たる六六万八〇四四円に前五6の慰謝料七〇万円を加えた一三六万八〇四四円である。

七  損害の填補 二四七万八五一七円

請求原因5の事実は、当事者間に争いがなく、してみれば、右原告の損害は既に填補ずみであるといわなければならない。

八  以上のとおりであれば、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩谷憲一)

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